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「できない」と「意味がない」は違う~緊急事態宣言に起因する不当な報酬不払いについて~

「できない」と「意味がない」は違う~緊急事態宣言に起因する不当な報酬不払いについて~2020.04.06

「できない」と「意味がない」は違う~緊急事態宣言に起因する不当な報酬不払いについて~

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1 はじめに

弁護士の河野冬樹でございます。

 

長く法律の話はブログでお休みしていたし、今までは著作権法の話題ばかりで、民法の話をするのも初めてなのですが、緊急事態宣言が明日にも出されるかという状況、また、そういう中で、特にクリエイターの方が苦境にあるというニュースが連日流れている状況で、本稿が少しでもお役に立てればと思い、筆を執らせていただきました。

 

最近業務をしていて多くなったと感じるのは、やはり、こういう状況なので、イベント等の中止に起因して、仕事の報酬が支払われず、それに関するご相談が増加していることです。

確かに、イベントの主催者の方も、自粛要請によって、イベント等が中止になり、想定していた収入が入らずに困っていることは承知しています。

また法律的に見ても、自粛要請とはいえ、実質上イベント等の開催が不可能な状態にある限り、報酬が払われないのがやむを得ない場合もあるのは事実です。

 

しかしながら、よくよく話を聞いてみると、特にデザイナーさんやイラストレーターさんなどに対して、かなり法的に疑問に思うような発注者の対応、また知らなければ泣き寝入りしてしまうところであった事例を複数見聞きしたので、注意喚起のために、以下をお伝えしたく、ご笑覧いただければ幸いでございます。

 

緊急事態宣言の有無にかかわらず、デザイナーの方などが、デザイン等の成果物を受注していた場合には、発注者都合ではなく不可抗力なので報酬払う義務はありません、というのは間違いです。特別な契約がない限りは、報酬の少なくとも一部は請求できる場合がほとんどです。

 

以下、説明していきます。

 

2 民法の規定

まず、緊急事態宣言により、事実上イベント等の開催が不可能となった場合(これを下記の民法上の履行不能と呼んでいいかも若干疑問があるのですが、特措法の文面まで踏み込まないといけないので、ここではその議論は割愛します。)を考えてみます。

民法では、お互いにどちらも悪くない理由で、一方のした約束が果たせなくなるのを、「履行不能」と呼んでいます。

この履行不能の時、民法では

(債務者の危険負担等)
第536条
1.前二条に規定する場合を除き、当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を有しない。

※なお、新民法が本年4月1日より施行されておりますが、同法の改正附則で、施行日より前に契約されたものはなお旧民法による(附則30条1項)とされています。

タイミングからして、現時点で問題になる方は、3月中には既に受注されていた方が多いであろうということで、あえて古い方の条文で解説しております。騒動が長引くようなら、新民法での解説も追記させていただきたいと思います。

 

とされています。

この条文の意味は、平たくいうと、どちらも悪くない時には(当事者双方の攻めに帰することができない事由によって)、仕事を受注した側(債務者)は、反対給付、すなわちお金を受け取る権利はない、ということです。

 

3 イベント中止の場合の具体的帰結

例えば、パフォーマーの方が、あるイベントにおいて公演を行うことを請け負っていたところ、これが中止になったとしましょう。この場合は、コロナというどちらも悪くない理由によってイベントそのものの開催が不可能である以上、「そのイベントにおいて公演を行う」ことができないので、上記の履行不能に該当し、反対給付を受けられない、という結論になるのも、政策論としてそのような方に国からの助成や補償をすべきかはさておいて、当事者の間ではやむを得ないところではあるでしょう。

 

ところで問題は、当日の出演者ではなく、その前に、例えばイベントのロゴやチラシのデザインを行っていたデザイナーの方に対しても同じ理由で支払いを拒むことができるか、ということです。

一見、同じように、イベントが中止になったのだから、結論も同じと思われるかもしれません。

しかし、ここでもう一度、上の民法の条文を見てみると、「債務を履行することができなくなった」とあります。ここでいう「債務」とは、あくまで「デザインした成果物を納品する」ことであって、それをイベントのために配布、使用するか否かといったことは、もっぱら主催者側の事情でしかありません。そして、納品自体は、通常、別に緊急事態宣言が出たからといってできないわけではないでしょう(もちろん、こちら側の業務が不可能になった場合を除き)。

そのため、このような場合には、履行が不能になったわけではなく、単に、主催者が、イベントが中止になったことで、デザインを発注する意味がなくなり、キャンセルをしただけのこと、と法的には判断されるべきと私は考えます。

 

そうである以上、民法上の請負の規定に従って、発注者都合でのキャンセルは、仕事が完成していれば報酬全額、完成していなくとも出来高に応じて支払われるべき、ということになります。

 

 

それにもかかわらず、不可抗力なので報酬払う義務はありません、といわれたとしたら、当日くる予定であったパフォーマーさんへの支払いなどと混同しているか、あるいは悪質な場合では、意図的に支払いを免れようとしている可能性が高い(余談ですが、弁護士が介入したらあっさり非を認めてきた相手もいて、おそらくその相手は意図的だったと思います)ので、ご注意ください。

 

4 おわりに

一見、同じようにイベントの中止のあおりを受けているのに、両者で差が出るのはおかしいし、自分だけがもらうべきじゃない、あるいは、実際に使えないのに納品物の代金をもらえるのはおかしい、などと思う方もいるかもしれません。実際、そう思って、自分から請求を躊躇される方もいらっしゃいます。

しかし、気が早いですが、コロナが無事終息して、中止したイベントを再度やろうとする場合を考えてみてください。

その場で行うものではなく、納品したイラストやデザインについては、同じデザインを流用して用いることは可能な場合が多いでしょう(もちろん、著作権法上適法な手続をしたうえで)。

そのため、今使うか否かにかかわらず、少なくともいつかは使えるものを納品している以上、ちゃんと報酬もらうだけの仕事をしているのだから、それを請求することに特段後ろめたさを感じる必要はないと、私は考えています。

 

最後になりますが、この記事が、相手の悪意の有無はともかく、無知につけ込まれる形で本来受け取るべき報酬を受け取り損ねているクリエイターの方に届けば幸いです。また、そのような報酬不払いに実際に遭遇された方は、一度ご相談いただければと思います。

 

※4/13追記

現在、多くのお問い合わせをいただいておりまして、このような報酬不払いのケースにつきまして、無料で、Web上での簡易なお問い合わせ対応をさせていただくことにいたしました。

このページの下に、「Web相談フォームはこちら」というボタンがありますので、そこに、必要事項と、現在の状況を記入いただき、送信いただければ、弁護士より、弁護士費用も含め、簡易な見通しを返信させていただきます。

自分の作品が不本意な使われ方をしている、という方は、一度、お問い合わせをいただければと存じます。

 

 

※注意事項

・お問い合わせをいただいた後、返信までに少々時間を要する場合がございます。

・フォームには、不払いとなった状況、金額、および、相手方との関係を、わかる範囲でなるべく詳細にご記載ください。

・返信は、あくまでもご記載いただいた情報に基づくものであり、その通りの結果が得られることを保証するものではありません。また、実際にお話を伺って、見通しが変わる場合がございます。

 

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