ここ数年の技術の進歩はめざましいもので、最近ではAR(拡張現実)という技術も登場しているようです。

 

私がいろいろな方とお付き合いをさせていただいている出版の世界でも、ARを積極的に活用していこうという動きがあるようで、理科の資料集で、動画を見られるようにするなど、本とARを結び付けようといった企画も動き始めているようです。

 

今回は、このARを本と結びつけた場合に、どんな著作権法上の問題が生じるかを考えてみたいと思います。

本の中に、ARの、マーカーとなる絵や写真を掲載して、それをスマホで読み取ることで動画が見られるという仕組みを考えて見ます。

 

ところで、実際にこの本の取り扱いを考えてみると、ひとつ疑問が生じます。

それは、このARのマーカーは、映画の複製物か、という問題です。

仮に映画の複製物だとすると、映画の著作権者でない人は、著作権法26条に基づき、複製物の貸与による頒布行為をすることが出来ません。

本に動画がついてくる、という仕組み自体は、たとえば雑誌の付録のDVDを考えてみれば、珍しいものではありませんが、このような場合ですと、例えば公共図書館で本を貸し出す際、DVDは別にして貸し出さないという運用がとられているようです。

しかし、ARのマーカーは、まさかARのマーカーのあるページを選んで切り取って貸し出すというわけにもいかないでしょうから、もしARのマーカーが映画の複製物だとしたら、事実上、ARのマーカーが記載されている本一冊まるごと図書館での貸し出しが出来ないということになります。

 

実際問題としては、ARのマーカーつきの本を借りれば、動画も自動的にみられるわけですから、DVDを一緒に貸し出すのと変わらないようにも思えます。しかし、ARがDVDと違うのは、そのシステムにあります。

マーカーがマーカーとしての役割を果たすのは、動画のデータそのものが搭載されているからではありません。一般的には、①動画のデータをサーバー上にアップしておいて、スマートフォンでアクセスしダウンロードさせるか、あるいは②あらかじめアプリ内に動画データを保存しておき、マーカーを読み込むことで動画が再生されるという仕組みがとられます。

①の場合というのは、マーカーの役割というのは、動画にアクセスすることを可能にするというだけで、動画のデータ自体は、マーカーだけをいくら解析したところで、全く読み取ることはできません。だとすれば、ここで行われているのは複製物の頒布ではなく、単に公衆送信されている動画にアクセスする方法を提供しているに過ぎない(いわば、「続きはWebで」といって、URLを載せるのと同じことです。)ことになりますので、マーカーそのものは、映画の複製物ではないという理解になるでしょう。

また、②のようにアプリの中に既に動画が含まれているならなおのこと、アプリとしてダウンロードがされた時点で、既に動画は利用者のスマートフォンの中にあるわけですから、やはり同じように考えていいのではないかと思います。

そのため、現行の著作権法から考えると、ARのマーカーそのものは映画の複製物ではなく、頒布権の保護は及ばない、ということになります。

 

ただ、この結論が直ちに納得がいくかというと、若干疑問があるのではないでしょうか。

ARの動画というのは、たとえサーバー上にあるとしても、マーカーが手元になければ、読み込むことが出来ません。そのため、マーカーと動画というのは、密接不可分であって、マーカーが、単に動画を読み込む装置に過ぎないという発想に、違和感を覚える方が多いのではないかと思います。

おそらくこの違和感というのは、突き詰めると、一体として公開されている著作物が、一つはオフラインで提供され、もう一つはオンラインで配信されていて、オンラインとオフラインの垣根がなくなっているという状況が、著作権法上あまり想定されていないことにあるのではないかと思います。

 

 

著作権法は、技術の進歩に応じて近年頻繁に改正がされていますが、この問題についてもそのうち法整備がされることになるのか、AR,VRの普及に関する法整備は、引き続きチェックしていきたいと思います。