1、はじめに

出版社という言葉は、通常文字どおり「出版」を行う会社を意味します。

そのため、出版を行わない出版社というのは、自己矛盾のように思われます。

しかしながら、著作権法の条文の構造を見ていくと、必ずしもそうとは言い切れないのではないか?というのが本稿の趣旨です。

2、著作権法の出版権の内容

著作権法上、出版社に与えられる権利を指して、出版権という言葉が用いられ、著作権法79条から88条に規定があります。

この出版権という権利は、大まかにいうと、紙の本として出版する権利(1号出版権)と、電子書籍として公衆送信を行う権利(2号出版権)に大別されますが、両者は、単に配信方法が違うだけで、著作権法上の条文上はほぼ同一の規定がされています。

 

ところで、1号及び2号の出版権の設定を受けた者は、同時にそれぞれの権利に対応する形で、出版行為を行う義務をも負っています(著作権法81条)。

著作権法81条

出版権者は、次の各号に掲げる区分に応じ、その出版権の目的である著作物につき当該各号に定める義務を負う。ただし、設定行為に別段の定めがある場合は、この限りでない。
一  前条第一項第一号に掲げる権利に係る出版権者(次条において「第一号出版権者」という。) 次に掲げる義務
イ 複製権等保有者からその著作物を複製するために必要な原稿その他の原品若しくはこれに相当する物の引渡し又はその著作物に係る電磁的記録の提供を受けた日から六月以内に当該著作物について出版行為を行う義務
ロ 当該著作物について慣行に従い継続して出版行為を行う義務
二  前条第一項第二号に掲げる権利に係る出版権者(次条第一項第二号において「第二号出版権者」という。) 次に掲げる義務
イ 複製権等保有者からその著作物について公衆送信を行うために必要な原稿その他の原品若しくはこれに相当する物の引渡し又はその著作物に係る電磁的記録の提供を受けた日から六月以内に当該著作物について公衆送信行為を行う義務
ロ 当該著作物について慣行に従い継続して公衆送信行為を行う義務

 

本稿で取り上げるのは、この著作権法81条の出版義務は、自分で出版行為を行わずに第三者に出版を許諾するだけで果たされたことになるのかという疑問です。

3、電子書籍の場合の問題点

まず前提として、出版権の再許諾は、著作権法80条3項に規定があります。

出版権者は、複製権等保有者の承諾を得た場合に限り、他人に対し、その出版権の目的である著作物の複製又は公衆送信を許諾することができる。

つまり、著者の承諾を得れば、第三者に出版を許諾することもできるという建前になっています。

では、出版権者が、第三者に出版を許諾するだけで自分では出版を行わなかった場合、果たして著作権法81条の義務を果たしたことになるのでしょうか?

ここで電子書籍(2号出版権)の場合を先に考えてみます。

出版社が1号と同時に2号の出版権の設定も同時に受けたとします。最近ではAmazonKindleなど、電子書籍のプラットフォームが発達したため、出版社は、ライセンシーとしてプラットフォーム業者に電子書籍の配信を許諾して、自分では配信行為は行わないことは十分にありえます。

このような場合に出版義務を果たしたことにならないとすると、著作者は、出版社が出版義務を果たさない場合には著作権法84条に基づき出版権を消滅させることができてしまうので、電子書籍として売れている作品について、電子出版権の消滅を主張して、改めて自分自身がプラットフォームに再許諾する(アマゾンセルフパブリッシングといって、そのようなプラットフォームもあるようです)、という行為ができてしまうことにもなりかねず、実際上かなりの不都合が生じてしまいます。

また、出版権の再許諾には著者の承諾が必要なので、著者は自ら再許諾を認めておいて、出版社による出版義務が果たされていない、と主張することを許すのは公平にも反しているように思います。

そのため、電子書籍の場合で考えると、著作権法81条の解釈として、「行う」とは、自分が行うだけでなく、第三者に許諾をして行わせることも含む(それで足りる)とするのが妥当なようです。

4、紙の本の場合

この、電子書籍について、自分自身が出版を行わなくともよいという結論を紙の本に持ち込んだ場合は、冒頭で書いたような、自らは出版を行わずに第三者に出版を再許諾するだけという存在を肯定することにもなります。

著作権法上、2号と1号は規定の構造が同じなので、この二者の解釈は統一されるべきでしょう。そうなると、電子書籍(2号)について、出版社が自分自身で行わなくてもいいという理解を取るのであれば、1号の紙の本についても同様に、出版社が自分自身で行わなくてもいいと考えなければ、矛盾が生じてしまいます。

ということは、出版権の設定を受けるだけ受けて、自分では出版を行わないで、ただ他の出版社に出版の再許諾を行うだけの存在もまた肯定されうることになります。

もともと出版権というのは出版行為を行う出版社の権利として確立した権利なので、このような結論にはかなり違和感がありますが、現行法上はこのように解さざるを得ないのではないかと思います。おそらく、この矛盾というのは、紙の本に関する権利であった出版権を、全く異なる利用方法、配信方法であるはずの電子書籍に拡大して同様に扱おうとしたことから生まれているのではないかと思います。

 

今まではそもそも著者の方が著作権の消滅請求を行うということも、自分で電子書籍として配信するなどということもおよそ考えられなかったので問題が表面化することはありませんでしたが、これからの時代は個人でも電子書籍の配信を簡単に行えるサービスも登場しているところなので、そのうち、このような問題が表面化してくるかもしれません。